小滝番楽

ruger2005-08-13

 鳥海山の麓、秋田県象潟町小滝の番楽です。天気が良ければ屋外で行うはずでしたが、あいにくの不安定な天候により、集落センターにて開催されました。
 19時開演ということで、余裕を見て18時にいったら真っ暗なセンターがあり、寂しく車で涼み、18時50分に再度行くと、まだ真っ暗なセンターがありました。一応公務出張なので、これで日付が違いました、という復命書が書けるものでもなく、途方にくれていると、原チャにのったおばあさんがやってきて、”あら、まだ誰もいないの!”といいながら促されて会場に。どうや開催されるようです。
 で19時、会場にはおばあさんと私の二人。一応幕も張ってありますし、入り口には生ビールのサーバがおいてありますから、開催は間違い内容です。あとは時間。消防車が19時から開催と叫びながら集落を回っていましたから、大丈夫だと思うのですが…
 19時10分、太鼓の音が遠くで聞こえます。しかし会場には5人ほどがたたずむばかり。うーん、よく仙台時間とか言って遅れてもしかたがない、とはいいますが、ここまで見事なルーズさは初めてです。
 ようやく、19時15分、神楽衆の会場入り、それに合わせるかのように人が集まり出します。神楽衆はまず、会場設営の続き、楽器の準備、等々準備に余念がありません。いや、開始が19時ではないのでしょうか。
 19時30分、何事もなかったかのように演奏開始です。お見事!


 一応県指定の芸能なのですが、ここまで自分がよそ者を実感したことはない、というほどの会場の雰囲気で、皆、あきらかにあいつは何処から来たのだ?という目で見られます。確かにこちらは仕事ですからビデオを回し、メモ帳になにやら書き込みつつ、写真をばしばし撮っていますから怪しいことこの上なのですが、芸能調査にありがちな撮影場所の確保とか皆無ですし、皆さん、極力ビデオを前を横切らないようにかがめながら歩いてくれて、こっちが恐縮することしきりの調査となりました。


 で、肝心の芸能。初めは下手かな、と思ったのですが調子が出てくるとどんどん合ってきます。また、推定年齢4才くらいの子どもたちが神楽に混じって会場で団扇を片手に踊りだすなど、集落の芸能の体裁が非常にとれています。上記のように異質な人は自分一人、という環境ですから、全てムラの論理でものごとがすすみ、解説も含め全て方言です。自分にはさっぱりわからない解説と会話の中で、皆がゲラゲラ笑うのを見つめるのみ、という感じでしょうか。
 番楽は修験が伝えた芸能とされ、また古風な修験系の芸能であり、猿楽系の臭いが残っているとされています。確かに芸能史的にはそういう色彩もありそうなのですが、それ以上に、宗教者から地域社会に伝承の対象が解放(変化)したために起こった芸能の性格の違いが顕著に表れている芸能のように見えました。
 宮城でいえば、法印神楽をみている、というよりも南部神楽を見ている気分、という感じでしょうか。
 もちろん、三番叟(こちらでは吉野)などを見ると、古い芸態ってこういうことをいうのかな、という気にさせられますから、単純にはそうではないのでしょうが、地域と一体になって”楽しむ”という面が非常にはっきりとしている芸能に見えました。